Bee Mite ID ―世界のハナバチ共生ダニの同定のためのオンライン情報―

Klimov, P. B.1, B. M. OConnor1, R. Ochoa2, G. R. Bauchan3 & J. Scher4

1ミシガン大学、2,3 USDA-ARS、4 USDA APHIS

 多くのハナバチ送粉者及びそれらによる生態系サービスが、生息地劣化、農薬使用、商業利用の個体群からの病原の溢出などの原因によって、急激な減少に直面している(Buchmann and Ascher 2005, Colla and Packer 2008, Gallai et al. 2009, Mazer 2007, Potts et al. 2010)。特にセイヨウミツバチ(Apis mellifera)の病気や寄生性ダニ類による顕著な損失は、人の食物の35%に及ぶと推測される動物媒介性の作物の生産減を引き起こしたとされる。現在では、ミツバチの送粉に頼らない、代替法の開発が進められている。その中ではマメコバチ類(Osmia spp.)やマルハナバチ(Bombus spp.)が有望視されている。送粉者の輸出入増加に伴い、新たな害虫ダニの導入機会や結果的にダニのホストスウィッチが増加している(Goka 2010, Goka et al. 2006, Goka et al. 2001)。寄生性ダニは直接的脅威となるだけでなく、新たなホストを獲得したダニはウィルス、細菌、糸状菌といった危険な病原菌を広めてしまうかもしれない(Cornman et al. 2010)。このような状況を防ぐことができるのは、検疫のみである。残念ながらハナバチ共生のダニの研究はたいへん少なく、分類情報は散在しており、また不完全だったり、専門家でないと入手しにくかったりする上、それらが修正されることもめったにないことから、検疫の実施は困難である。たとえば、私たちは89科219属715種のハナバチ共生ダニの文献情報を得たが、その多くがミツバチ(294種)またはマルハナバチ(91種)由来だった。これらの多くのダニの地理的分布、寄主範囲、基本的な生態(たとえば、ハナバチ共生ダニの加害、ほぼ利害なし、相利共生などの役割)は不明である。このような障壁が、加害性のハナバチ共生ダニが国境を越えて広がる危険性を増加させているといえるだろう。この緊喫の問題は、世界中のどこからでもアクセス可能なコンピューターベースの同定システム開発によって解決すべきである。たとえばその重要性はTropilaelapsの例からも見ることができる。この属は、アジアのミツバチを攻撃する害虫ダニを含んでいる。これらの種は合衆国ではまだ定着していないが、検疫によって侵入を阻止しなければならない。しかしながら、合衆国港湾での受け入れ時点で300種近くのダニがミツバチから発見される現状では、このダニを見分けることはほぼ不可能といえよう。多くのダニはミツバチの巣に共生する無害な雑食者か、むしろほかの害虫を食べてくれる捕食者である。従って、PC同定システムはこのような状況下で素早く特定の害虫を見分ける、強力なツールになるだろう。
 現状打開とハナバチ共生ダニの系統分類の展開のため、私たちはUSDAと協力してBee Mite ID: Bee-associated Mite Genera of the World, http://idtools.org/id/mites/beemites/ (Klimov et al. 2016)というオンラインツールを開発した。このツールでは、ダニに関する専門知識のないユーザーのために、現存のダニの分類と基本的な生態を簡易検索、統合、分析用に有機的に結合させている(図1)。そのために、最新技術とサイバーインフラを活用している。
 ダニの属の同定のために、このツールは、画像と地理的分布、寄主範囲、生態、防除およびその他の害虫や検疫対象種にとっての必要情報のデータを補足したLucidベースの電子同定システム(図1D)を採用している(ID Tools, http://idtools.org/id/mites/beemites/key.php) (Fig. 1B)。電子同定は、特に膨大なデータに対しては非常に強力なツールである。事前に定義されない形質に依存する二分岐方式の(同定)*キーに比べて、電子キーは、各ステップにおいて動的な最適化手法をとる。たとえば、現存の分類群を分割している多重形質を優先化することで、最適化を図るという同定基準を用いる。この基準によって、256分類群の同定はたった4つのステップで完了する。それは四重形質が使われる場合であり(44=256);二重形質では8ステップであり(28=256);もし同定基準がユニークな形質によるのであれば、1ステップということもありうる。同定を動的に最適化するコンピュータアルゴリズムというだけでなく、電子キーは、一つから複数の画像とリンクしているので同定を包括的に行うことができるため、一般に使いやすい。これらの電子キーの特性は、未知の種を同定するために必要とされる特殊な用語を知らない人々にとって、非常に有用である。ゆえに、ダニ学の経験を積んだ担当者が不足している現状では、このような電子同定は、各国の防疫担当機関への大きな貢献となるだろう。
 形質ベースの相互同定システムであるLucidに加えて、私達のツールはさらに画像に特化している。ここにはFact Sheets(http://idtools.org/id/mites/beemites/factsheet_index.php)と呼ばれる、ダニの分類に必要な様々なステージや性別のダニの1000件の診断画像が使われている(図2)。画像には注釈があり、同定形質については、直接画像をハイライトして説明している(図1B, 2C, D)。このことにより、ユーザーは同定形質と自身の標本を容易に一致させることができ、同定を速やかに完了することができる。
 このツールはまた、特定のハナバチグループと関連のあるダニの7つの簡易参照ガイド(http://idtools.org/id/mites/beemites/ quick_reference.php)も提供している(図1C)。これら7つのハナバチ群は、世界中で送粉のために最も大量にかつ広範に使われるミツバチ、マルハナバチ、ハリナシバチのようなグループを含んでいる。素早く比較するために、7つのガイドは、それぞれのハチと共生するダニの属の高解像画像を見せる。このことによって多くの場合、詳細な形質を検討することなく、ダニの概観で同定が完了するだろう(図1C)。
 結論として、私たちはこのツールによって、研究者がハナバチ共生ダニに関する貴重な観察等を行って潜在的な問題を突き止めることができ、そのことによって将来的なリスクアセスメント、外来ダニ導入の発見、根絶に資すると確信している。またこのことは、ナチュラリストである一般市民や養蜂家(ミツバチやその他の送粉者の管理をする人々)、持続的な作物生産者、ハナバチ媒介者を利用している自家栽培をする人たちやハナバチが訪れる庭を愛する人々に、特に重要である。我々のツールは、経済的に重要な送粉者としての外来ハナバチへのダニのホストスウィッチを監視する必要性に鑑み、生物多様性や野生のハナバチに関連する様々なダニの果たす役割の理解に資することを目的とする。簡便なウェブ情報として、本ツールは対象分類群の分類や命名に関する重要な情報の普及を促すだろう。また更なる昆虫およびダニ学コミュニティの共同研究を促すことと考える。
* 訳者による追記。

引用文献

  • Buchmann, S. & J. S. Ascher. 2005. The plight of pollinating bees. Bee World.86: 4.
  • Colla, S. R. & L. Packer. 2008. Evidence for decline in eastern North American bumblebees (Hymenoptera : Apidae), with special focus on Bombus affinis Cresson. Biodiversity and Conservation.17: 1379-1391.
  • Cornman, S. R., M. C. Schatz, S. J. Johnston, Y. P. Chen, J. Pettis, G. Hunt, L. Bourgeois, C. Elsik, D. Anderson, C. M. Grozinger & J. D. Evans. 2010. Genomic survey of the ectoparasitic mite Varroa destructor, a major pest of the honey bee Apis mellifera. BMC Genomics.11.
  • Gallai, N., J. M. Salles, J. Settele & B. E. Vaissiere. 2009. Economic valuation of the vulnerability of world agriculture confronted with pollinator decline. Ecological Economics.68: 810-821.
  • Goka, K. 2010. Biosecurity measures to prevent the incursion of invasive alien species into Japan and to mitigate their impact. Revue scientifique et technique de l office international des epizooties.29: 299-310.
  • Goka, K., K. Okabe & M. Yoneda. 2006. Worldwide migration of parasitic mites as a result of bumblebee commercialization. Population Ecology.48: 285-291-291.
  • Goka, K., K. Okabe, M. Yoneda & S. Niwa. 2001. Bumblebee commercialization will cause worldwide migration of parasitic mites. Molecular Ecology.10: 2095-2099.
  • Klimov, P. B., B. M. OConnor, R. Ochoa, G. R. Bauchan & J. Scher. 2016. Bee Mite ID: Bee-Associated Mite Genera of the World. USDA APHIS Identification Technology Program (ITP), Fort Collins, CO. Accessed 07 201Nov idtools.org/id/mites/beemites.
  • Mazer, S. J. 2007. Status of pollinators in North America. Nature.450: 1162-1163.
  • Potts, S. G., J. C. Biesmeijer, C. Kremen, P. Neumann, O. Schweiger & W. E. Kunin. 2010. Global pollinator declines: trends, impacts and drivers. Trends in Ecology & Evolution.25: 345-353.

本和訳は、著者らの許可を得て岡部貴美子(国立研究開発法人森林総合研究所)が行いました。原文は、日本ダニ学会誌 26巻1号に掲載されます。